1990年代、北米自由貿易協定(NAFTA)や欧州連合(EU)等の国際体制が次々と誕生したことにより、具体的に実現されている地域統合とその成果が目に見える形になったことで、国際社会におけるリージョナリズムという概念をめぐる議論が熱を帯びている。
「ヨーロッパにできるのだからアジアでも」というのが以前よく聞かれた話だろう。そういった背景の中では、「東アジア共同体」、即ち、ヨーロッパのEUのような政治と経済の統合共同体を、東アジア諸国でも実現していこうという構想が大いに沸いていた。
アジア太平洋経済協力(APEC)の設立、東南アジア諸国連合(ASEAN)の増員及び機能の拡大、日本によるアジア通貨単位の提唱等多くの形で東アジア統合が推進され、共同体について多様な構想も出てきた。そして、近年は、中国の台頭により、今後東アジア統合の指導者になるという予想も国際社会に溢れている。一方、今まで自国が思い描いた通りに東アジアの将来像を設計・実行しているアメリカとの対立も益々白熱化している。
東アジアの国々が統合を期待している理由としては、経済面と政治面が中心と考えられる。統合による地域内の貿易や交流の円滑化、関税の減免等の政策がもたらすコストダウンに加え、新市場の開拓も東アジア統合が望まれる経済面の理由だ。そして、各国間の繋がりが統合で強化されれば、対立や戦争が発生しにくいと考えられる。つまり、国家安全も確保できる。
その概念を実践するのがASEANの誕生と考えられる。統合により、参加国間の貿易が活発になり、共同体として行動することで、国際社会における影響力と発言力も一つの国より強くなってきている。但し、RCEPやASEAN経済共同体の推進状況から見ると、ASEAN十ヵ国間の経済力、種族、宗教等の違いにより統合の広さと深さが不足し、難行しているところもある。ASEANがEUのように成る迄には時間がかかるし、EUと同じ力を持っている共同体として、東アジア全体の統合を主導することは、非常に難しいと考えられる。
古今東西、東アジアが長い間穏やかな状態を維持していたのは、恐らく朝貢貿易の時期しかないだろう。前近代の中国が東アジアの中心として、周辺諸国の夷狄たち(漢民族ではない人達)が中国の皇帝に対して貢物を捧げ、中国(朝貢を受ける側)がその数倍から数十倍の価値の宝物を下賜する。宗主国にとって、いわゆる「厚往薄來(ギブが多く、テイクが少ないこと)」の国際システムだ。そして、中国の支配・管理範囲の認識は、相手国との距離や朝貢の頻度に影響され、各国の朝貢貿易圏における役割や機能も異なっていた。
今まで、「中国脅威論」を緩和する目的も含め、周辺国家が自身の経済発展を阻止しないように、中国は「善隣政策」を訴えている。それは、国益を守り安定した政権を維持するために、やはり経済力が一番大事なものだからだ。「一帯一路」、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」「新開発銀行(別称BRICS銀行)」、RCEP等新型の貿易モデルは現在中国が一番熱心に推進している経済政策だ/である。資金や技術の提供により、より多くの国の参入を求めている。つまり他国の「薄」ということだ。今の中国が提供できる「厚」は、金銭や物品等の何十倍の宝物だけではなく、とりわけ開発途上国に世界の貿易ゲームに参加できるチャンスを与えることが、競争者アメリカには提供しにくい「厚」である。いつの間にか、中国が違う形で現在の「新朝貢貿易」の体制を逐次に作りあげている。ASEAN諸国は、東アジア統合の主要推進者になれなくても、途上国の一員としてこの体制を支持することにより、「新朝貢貿易」の完備にとって、重要な存在と考えられる。
朝貢貿易による東アジアの平和維持が、昔は成功した。
しかし、主権国家概念の深化、軍事力強化や技術革新がもたらす脅威感、そして何よりアメリカがいる限り、中国が朝貢貿易というメカニズムを機能させることは困難なのだ。アメリカが恐怖を抱いているのは、「新朝貢貿易」が構築する中国中心の世界観、また、中国が宗主国として支配している東アジアの地域政治である。その結果、中米双方が各方面で競争し、自分に有利な情勢やパートナー関係を構築しようとしたことで、南シナ海等のような衝突が発生してきた。
競争が戦争、両大国のうち、より魅力的な統合戦略を打ち出せる方が、今の東アジアで優位に立てる。しかしながら、東アジア諸国が自分の国益により、必ずしも同じ国を支持するとは限らないため、大国の勝負も、昔のように戦争で決めることではないのだ。
中国とアメリカの対立。今まではこんなに激しくなかった。
東アジア諸国の力も今のように重視されていなかった。
国際政治をひっくり返す時代にたどり着いたのかもしれない。