今回の総統選挙で、蔡英文が外交方針の一環として打ち出した「新南向政策」。「新」という概念が加わっていることからもわかる通り、今までにもいくつかの「南向政策」が推進されているのだ。

李登輝政権も、陳水扁政権も、台湾資本の「西進」、つまり中国への投資という大きな流れに対抗するため、東南アジアへの投資を支援する「南向政策」を推進した。しかし、結果的には中国への依存も緩和できず、東南アジア諸国及びASEANの経済・貿易体制への参入もうまくできなかった。結果はさておき、これまでも東南アジアに対する関心を、政府が確実に持っているが故、蔡氏の提示した「新南向政策」に対し、新味がない等の批判が出るのも不思議ではないと思える。

もちろん、新味を出すため、蔡氏もいくつか新しいコンセプトを「新南向政策」に注入している。まず、中国への投資は阻止しない。「南向政策」と「西進」とはいずれも、あくまでも台湾の海外投資の選択肢の一つにしておくのだ。そして、片方向の投資より、双方の交流を強調する。つまり、東南アジアから台湾への投資にも期待し、台湾企業が持っている中国ビジネスのノウハウを活用して、台湾と東南アジアとの連携による中国への共同進出も十分考えられている。さらに、「新南向政策」は多様な交流を追求し、経済・貿易の交流以外にも、文化、教育、研究開発まで、交流を拡大しようとするものだ。

それだけで、新しい1ページが開かれた台湾社会、国際経済状況及び東南アジアの投資環境への対応と準備ができていると言えるか。我々はどういう目で東南アジアの投資や東南アジアの人達を見ているか。

現在、東南アジアの労働者が50万人、その配偶者も20万人が台湾にいる等、東南アジアと深い絆を結んでいるはずなのに、恐らく親しみより、軽視する気持ちが強いだろう。2015年のラマダン(断食月)明けに、イスラム教を信仰している大勢の東南アジアの人達が台北駅に大集合。それに対して、迷惑や目障り等批判も出てきた。幾ら政府がASEANという巨大な経済圏のことを意識し、飛び込もうとしても、台湾社会における双方の接触を見れば、若干違和感があるのだ。

異なる外見や仕草を見慣れていないから、心理的な抵抗、嫌悪感が芽生えるのはごく普通だが、話し合い、交流によりお互いが尊重し、認め合う関係の構築が可能だと考えられる。それも、多様な交流がもたらす、一番期待すべき効果だ。グローバリゼーションに伴う人の移動という現象により、移民・外来労働者に対する政策が益々重要かつ難しくなってきた。2015年末、ASEAN経済共同体が成立したため、東南アジアにおける変化が加速する新しい将来も想像できる。

台湾の新しい蔡英文政権はこの波に乗るため、変化に応じる情報や知識はもちろん、これまでの台湾企業・ビスネスマンの東南アジアにおける実績の活用も今後「新南向政策」を実行する時の要点だと考えられるのだ。もっと重要なのは、「新南向政策」を受け入れる環境と心境の整備だ。労働関係の法律、教育(東南アジア移民者の学歴認証、子供の母語教育)、観光(入国ビザの免除)等の政策の調整で、台湾と東南アジア諸国の交流円滑化を促進する。それにより、東南アジアに対する見方や想像も徐々に変わって、双方の交流にとってより優しい社会を構築することも期待できる。

台湾は中国の経済パートナーだけではない、ただのアメリカの盟友ではない、日韓文化のみ歓迎するわけではない。これからはアジアの台湾になるべきだ。

心の新があるからこそ、新の進が穏やかに実現できる。