2015年12月末に国立故宮博物院南部院区(以下南院に略称)が台湾の嘉義県でプレオープンを迎えた。「アジア芸術文化博物館」と位置づけられている南院は、台湾の特徴を強調しながら、アジア文化交流史を軸としておき、台北故宮博物院(北院)が保存している文物を再解釈し、新たな意味で展示していく。アジアで最初のアジア芸術文化を中心にする大型国家レベル博物館であり、多数の国が共有している仏教芸術、染織物、茶文化などのテーマで常設展覧を開くと共に、個別の地域特有の工芸品であるイスラム玉器、高麗青磁、伊万里磁器などの特別展覧も行っている。
先週フィナンシャル・タイムズが、「アジア地域貿易の中心である台湾の歴史を強調する南院の開設によって、博物館外交を通した自国の国際地位と参入度向上が可能となる」と報道した。このニュースが言うように、外部に対する機能が期待できるだろうと思われてるが、アジアにおける台湾という政治・文化主旨は全体の台湾人の考え方を代表できるかどうか考えなければならない。
中華文化を特徴とする台北故宮に付属している南院は、中国政協委員である俳優のジャッキー・チェン氏から寄贈された円明園十二支獣首レプリカを展示しており、このことを強い台湾意識を持っている国民に非難されている。一方、台湾をアジア史の流れにおいて解釈すると、元々台北故宮博物院が中華文化の正統性を代表しているという立場が薄れてしまい、中華文化に共感を持っている国民からも批判されている。
今「台湾と中国」や「台湾意識と中華民族」という二つのアイデンティティーがある台湾で、両方の間で折衷な論説をしている南院はどちらにも気に入られない。そのため計画想定から予算審査まで常に論争が起き、数回の遅延にもつながり、政治面での葛藤が見られる。元朝日新聞台北社長の野嶋剛が、台湾メディアのインタビューで「如果兩個中國造就兩個故宮,那麼南院和北院就是兩個台灣(二つの故宮はふたつの中国によって作り上げられたもの。とすれば、南院と北院は二つの台湾ということになるのだろう。:和訳は筆者)」と述べているのは、しっかり今台湾で発生している問題を説明している言い方である。
台湾の将来という観点から考えた時、南院はアイデンティティーが分裂している台湾で「アジアにおける台湾」という主旨をどのようにに続けてアピールしていくか?今まで国民全体が代表できる主張がほぼ一つではない台湾に対して、この主旨が国民の共感を得られるか?イデオロギーやアイデンティティーでも時間が経つと中道化になると思われていることにより、比較的に中庸な「アジアにおける台湾」は台湾人のコンセンサスになることが期待できる。その過程で南院の役割が益々重要になると思われる。